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2010年01月28日

窮地の大統領、ついに宣戦布告


オバマ政権の「ウォール街叩き」の本気度




「狂気の沙汰だ」――。ウォール街からは驚きと怒りが入り交じった声がわき起こった。

1月21日朝、オバマ米大統領は大手金融機関の事業規模を制限し、商業銀行のリスク投資を原則として禁じることなどを柱とする金融規制強化策を発表した。完全実施されれば、未曾有の金融危機を脱し、これから本格的な回復を遂げようという巨大金融機関は、その道を阻まれることになる。

奇しくも、大統領のテレビ演説は、2009年10-12月期の決算で至上最高益を叩きだした米金融大手のゴールドマン・サックスの決算説明会の真っ最中に行われた。あたかも、ウォール街に宣戦布告をするかのようなタイミングだった。

新提案のポイントは2つある。第1は、伝統的な預貸業務を営む商業銀行が、ヘッジファンドやプライベートエクイティファンドなどに投資することを禁じる。さらに自己勘定で高リスク商品を売買することも原則認めない。庶民から集めた預金を、投機ではなく安全確実な運用に充て、過度なマネーゲームを排除するのが狙いだ。



第2のポイントは、金融機関の負債規模に対する上限設定だ。負債のうちの預金については、市場シェア10%という枠が既にはめられており、その発想を負債全体に広げるという。巨大金融機関の破綻がただちに金融システム危機につながる事態を防ぐため、既に肥大化した金融機関が絡む合併・統合を認めない。具体的な上限数値は不明だが、既存金融機関が事業売却を迫られ、解体につながる恐れすらある。

補選敗北で、大衆迎合に走ったか?

「大きすぎて潰せない(Too big to fail)銀行によって、納税者が人質にされることが二度とあってはならない」。オバマ大統領の言葉に込められているのは、単に、「金融危機再発を絶対に防ぐ」という型通りの決意だけではない。公的資金注入によって救済されたウォール街が、早くも高額報酬を謳歌していることに対する国民の不満を十二分に受け止めている──という政治的なメッセージだ。

オバマ政権は1年前、「米国史上初の黒人大統領」という新鮮なイメージをまとい、「Yes, we can」というフレーズに象徴される、行動力への期待を集めて船出した。

ところが、大規模景気対策に伴う巨額財政赤字や進まぬ医療保険制度改革と政策運営は苦難続き。発足当初は70%前後だった支持率が5割を切るケースも出てきた。

オバマ政権にとっては、2010年秋の中間選挙を控えて支持率挽回が喫緊の課題。しかし、民主党の大物だったエドワード・ケネディ上院議員の死去に伴って1月19日に実施されたマサチューセッツ州の補欠選挙で、共和党候補に議席を奪われた。金融規制案の発表は、与党民主党の敗戦ショック冷めやらぬタイミングだった。

このため、米メディアは、大統領のウォール街叩きを「大衆迎合主義」(ニューヨーク・タイムズ紙)などと揶揄。金融サービス多様化の流れを真っ向から否定する政策転換であり、銀行と証券の分離を定めたグラス・スティーガル法の復活だとして、「『窮鼠猫を噛む』だ。実現可能性は極めて乏しい」(エコノミスト)と冷ややかな反応が大勢だった。

連日の株安、怯え始めたマーケット

一度は救った巨大金融機関を大統領自らが否定するのだから「オバマ・ショック」は強烈だ。発表当日のダウ工業株30種平均は前日終値比213ドルの大幅安で引け、翌22日も216ドル安。ダウが2日連続200ドル超の下げを演じたのは、金融危機の嵐が吹き荒れていた2008年11月以来、実に1年2カ月ぶりの出来事である。

演説直後に大型金融株に売りが殺到したのはやむを得ないにしろ、買い戻されると思われた翌日も株安となったことが問題だ。22日は主要経済指標の発表がなく、売り材料はオバマ提案しかなかった。相場に対する投資家の不安を示す「恐怖心指数(VIX)」も2カ月半ぶりの高水準へと跳ね上がった。

2日連続の相場下落を、あるディーラーは「『オバマは本気かもしれない』という疑心暗鬼」と表現した。


実は、さらに遡ること1週間前の1月14日、米政府は、大手金融機関50社に対して資産規模に応じた「金融危機責任税」を課す方針を発表した。金融危機対応策として実施した公的資金注入をはじめ、一連の国民負担を回収するための措置だ。そして補選敗北を経ての追加強化策発表は、いかにも、大衆迎合な政治的ポーズのように見えるが、公表時期を探りながら、政権が周到に準備を重ねてきたことは否定しようがない。

それゆえ、「規制が実現不可能だと一蹴されない自信があるのではないか」(同)という怯えにも似た思いが、演説から一夜明けた市場に広がったというのだ。

経済チーム、堪忍袋の緒が切れた?

大統領が「ボルカー・ルール」と呼ぶ規制案は、共和党政権時代の金融自由化の流れに警鐘を鳴らしてきた元連邦準備制度理事会(FRB)議長のボルカー氏の主張そのものだ。ボルカー氏は大統領選期間中からオバマ陣営の経済政策のブレーンを務め、オバマ氏は当選直後の11月に経済回復諮問会議の議長に指名した。つまり、その時点から、金融危機を克服した後には、巨大金融機関を否定する下地はあったのだ。

ただ、大統領に経済情勢を毎日レクチャーする国家経済会議(NEC)のサマーズ委員長(元財務長官)は「比較的金融界寄り」(銀行アナリスト)と目されてきた。それだけに、政権内での「ボルカー氏勝利」で、ホワイトハウスの経済政策チームのパワーバランスに微妙な変化があったのか──と勘繰りたくもなるが、どうも実態は違うらしい。

サマーズ氏は2009年末のある講演会で、意外な姿を目撃されている。聴衆から「過去最高水準となる2009年分の金融機関報酬についてどう思うか」との質問が投げ掛けられると、それまでの穏やかな態度が一変。顔を紅潮させて「どうして彼らは自らの立場を理解できないのか」と金融界を猛然と批判したという。オバマ経済チーム全体の堪忍袋の緒が切れたとすれば、大統領提案を単なるポピュリズムと片付けるわけにはいかなくなる。

金融業界団体の金融サービス円卓会議は、大統領演説の直後に、負債抑制は貸し渋りを招き、景気の足を引っ張りかねないとの主張を展開。「(新提案は)金融規制改革の目標に矛盾する」と断固反対の旗幟を鮮明にした。規制案をめぐる政府との攻防激化は必至だが、ワシントンの怒りを鎮めるには、想像以上の代償を払うことになるかもしれない。




posted by world at 11:46| 政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする